生ビールと瓶ビール

ツイッターで友人の北島さんが
「生ビールは瓶より新鮮だと勘違いしてる人が多い」ってホントかい? 私の周囲では見た事がない【笑】。
と書いていた。
さすが首都圏でフードライターをやっているだけあって、周囲にいる人たちもレベルが高いわと感心したのだが、いまだに瓶ビールよりも生ビールのほうが旨いと考えている人は、特に地方で多いようなので、改めてその誤解を解いておきたい。
そもそも生ビールとは何か。
熱処理していないビールのことである。
では瓶ビールは熱処理してあるのかというとそうではなくて、ほとんどの瓶ビールが生ビールである。
我々が普段見かける熱処理ビールはキリンのクラシックラガーとサッポロのサッポロラガー、いわゆる赤星くらいだ。
ほとんどの瓶ビールも中身は生ビールだが、ビールサーバーからジョッキに注いだ生ビールのほうがフレッシュで旨いと考えている人が多いようだ。
これは確かに一理あって、太陽の光を浴びた瓶ビールは確かに酸っぱくて変な味がする。
流通や酒販店の扱いが不明なので、光の入らない樽に入った生ビールはリスクが少ないと言えるだろう。
また、ジョッキに注がれたビールは飲み応えがあるし、ビールサーバーから注がれるため、泡で綺麗に蓋をすることが可能。
瓶ビールは小さなグラスで飲まれることが多いため、上手に注ぐことが難しく、また、ジョッキのように咽喉を鳴らして飲むことができない。
これは瓶ビールからジョッキに注げばほぼ解決するのだが、それをやってくれる飲食店が少ないという問題もある。
しかし、生ビールは致命的な問題を抱えている。
サーバーの洗浄や手入れを怠ると、瓶ビールよりもずっと不味くなってしまうことだ。
また、常温のビールをタップに流す途中の管で強制的に冷やす機構が多いため、ビールの味が荒れてしまう。
樽ごとじっくり冷やせば、ビール内のガスが落ち着き、舌に荒れを感じない。
これは、冷蔵庫で一晩静置したビールと、常温から冷凍庫で急激に冷やしたビールを飲み比べれば判る。
生ビールの旨さに心砕いている店では、樽ごと冷やしている店もあるけれど、それは極少数だ。
僕が知っているのは呉市の「オオムラ」と広島市の「むろか」くらい。
特に「オオムラ」は氷で冷やすという、貴重な冷やし方を実行している。
#現在「オオムラ」は残念ながら休業中
ところが生ビールが旨くないのは設備の問題よりも、手入れの問題であることのほうが多い。
先日、松江市に訪れた際、日本酒の品揃えで評判の店を訪れた。
生ビールはヱビスとのことだったのでお願いしたが、強烈に不味いビールが出てきた。
僕は最初の一杯を飲み干すことができなかった。
この店の店主が広島市で働いていた際、僕は何度か話をしたことがあり、旧知だったこともあり、こんなビールを出しちゃダメだと伝えたが、たぶん僕の言っていることが理解できなかったのだろう、反応はとても鈍かった。
飲めばすぐに判ると思うのだが。
僕の感覚では生ビールが旨い店は5店に1店もない。
抜群に旨い店となると30店に1店もないのではないか。
一つ、端的な見分け方を伝授するならば、ジョッキの内側の壁面に荒い泡が付着している店はNGだ。
グラスが適正に洗浄されていれば、内側の壁面に泡は付かない。
どんなに注ぎ方に気を遣っても、グラスが汚れていたら旨いはずがない。
まぁこれは瓶ビールでも同じことなのだが。
ちなみに瓶ビールは生ビールほど外れない。
先に述べたように日に当てたり、古かったり劣化したりした瓶ビールを売る酒販店は滅多にないので、外れに当たる可能性がとても低い。
また、中ジョッキ一杯と中瓶一本を比べた場合、中瓶のほうが量が多い。
50円や100円くらい高くても、コストパフォーマンスは瓶ビールのほうが高いことが多いのだ。
そのため、食に対する意識の高い人ほど瓶ビールを選ぶ。
もちろん、旨い生ビールを出してくれることが判っている店では、生ビールを選ぶ。
僕も以前は生ビールでその店の姿勢を測ろうとしていたけれど、最近は最初から瓶ビールに逃げることが多い。
一時期は生ビールの次に瓶ビールを頼んだりして、それはつまり、暗に生ビールが旨くないよとのメッセージだったのだが、僕の思いを理解してくれる店はほとんどなかった。
つまりある意味、諦めてしまったのだ。
たぶん、今後も僕は瓶ビールを選び続けるだろう。
では缶ビールはどうか?と言われるかもしれないが、僕には緊急避難的位置づけだ。
金属的な鋭い酸味がどうしても苦手なのだ。
ましてや缶からそのまま飲むなんて絶対にやらない。
金属臭が酷くて気持ち悪いし、ビールはグラスに注いで適度にガスを抜いて、最も旨くなるように調整してあるからだ。
アルコールと炭酸ガスがほしいだけならビールを飲む必要はない。
ことほどさようにビールとは奥の深い酒なのだ。
単にアルコール摂取の手段として飲んでいる人に説いても詮無いが、ビールを人生の喜びの一つとして味わいたいと考えている人ならば、本当の生ビールの旨さと、瓶ビールの安定したレベルの高さを知ってほしいと僕は思う。

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